「北安曇地域は冬が長くて、雪国で自分の生活を守ること、寒さから身を守る生活必需品などが昔から色々とありますが、特に昔はワラぞうりやゴンゾ(雪靴)作りが盛んでした」と研友会のメンバーの一人である佐藤節子さんは話す。
雪国文化の原点は小谷村だと、雪深い小谷村で布ぞうりを制作している方を紹介してもらい、メンバーと一緒に作り方を習いに何度も小谷村へ通いに行った。それから皆で教えあい、作り方の本なども読みこんで作り方を研究している。メンバーの家に集まって、おしゃべりをしつつ制作は始まる。
布ぞうり・布スリッパ作りに必要な材料は、編み台、ナイロンロープ、はさみ、いらなくなった布を3~8cmほどの幅に切り裂いたもの。布の幅は、生地の柔らかさや厚さなどによって調整している。
「布は何でもいいんですよ。着なくなったTシャツやシーツ、カーテンやこたつ布団など何でも。そして裂いて使う。けっこうストレスがとれて良いかもしれませんね(笑)」。
昔の人は草履の芯になるロープを足の指にひっかけて作っていたが、今は布ぞうり・布スリッパ専用の編み台があり、インターネットなどでも簡単に手に入るようだ。佐藤さん達が使っている編み台は、使いやすいようにあれこれと工夫をして、ようやく昨年形になったオリジナルの編み台。床に置いて使う台と、テーブルに固定して使う台の2種類がある。
「今は足の指にひっかけて作ることはあまりないですね。この編み台を使えば、足も腰も痛くなりませんし、これができあがってからもっと作るのが楽しくなりましたね」。
編み台の先端にある凹凸の部分に、芯となるロープをひっかけて色の組み合わせを考えながら編み込む。機織りのように、指でキュッと目を詰めていく。初めて作る人でも、布ぞうりなら2時間ほどで両足分できあがる。
「布は切りっぱなしの時と、ぞうりやスリッパになった時とぜんぜん感じが違って、こういう感じになるんだと驚きや発見があって楽しいです。配色も楽しんでいますね。片方は黒、もう片方は赤にして、鼻緒は同じ色にしている男の子もいました。なかなかエキゾチックですよね」。
「履いて家の中を歩いていれば、廊下がきれいになったりしていいんですよ。汚れたら洗濯機にいれて洗えますし、裸足で履いても履き心地が良く、暖かいんです」。
物が溢れている豊かな時代ではあるけれど、必要なら手ぬぐいをさばいてでも自分の履くものを作ることができる。そういう心の豊かさを知ることは大事。生き方を見直す時代なのではないかと佐藤さんは言う。そして、小さな子供から大人まで、たくさんの人に布ぞうり作りを体験して欲しい。特に高齢者の方には、仲間作りやボケ防止にも効果が期待できるからぜひおすすめしたいと言う。
「一緒に一つの事をやることって、今とても重要な事だと思うんです。今の社会はバラバラになりすぎていて、もう一回子ども達や、地域のひとりぼっちになりそうなお年寄りの方々と一緒にやりたいなと思っています」。
現在では、松本市にある文化センターでの教室や、地元の中学、高校の総合学習の中での講習もしている。自分で履けるものを作れるなんて、おもしろい!と、出来あがった作品に皆大喜びだ。
「多くの布地にも出会えるし、人との出会いもある。布ぞうり作りをしていれば痛い所なんて忘れて、毎日とても楽しいねってみんなで言っています。老いこそ楽しく過ごして行きたいですね」。うららかな安曇野の村では、こんなエコな手作り体験が楽しめる。
※松川村にある村営の宿「すずむし荘」では、「布ぞうり・布スリッパ作り」が体験できる。要予約で5名様からの受付(1週間前までに)。 |