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この記事は2011年春号です
土屋印店
〒382-0083 長野県須坂市上中町156
TEL.026-245-0607/FAX.026-248-4781
http://www.hankowa.jp/tcy.htm
須坂市で創業100余年の「土屋印店」の5代目土屋武志さん(35歳)は、印章彫刻を始めて今年で5年目。手彫り作業での印鑑を制作している。
父親の重忠さんが大きな手術をした事をきっかけに始めた印章彫刻。それまでは7年間会計事務所で働いていたという。家業を継ぐことを決めた土屋さんは、神奈川県にある印章の職業訓練校に、2年間長野から毎週末学校に通った。
「始発の新幹線に乗って、帰りは高速バスで帰っていました。大変でしたけど、せっかく行くからにはと、学校で朝から夕方まで技術を学んでいました」と話す。
学校では、はんこを彫る道具、彫刻刀のような印刀を自分で作る事や、字の練習から始まったそう。訓練校を卒業した現在でも、毎月1回は同じ学校の研究科に通っている。
「終わりはないですね。できるだけ通い続けたいと思っています」と土屋さんは話す。
技術の向上のためにと出場している印章彫刻の技術を競う「大印展」と「全国印章技術大競技会」では、金賞など数々の賞を受賞した。
「そういう大会に参加すると、同じ課題を皆で彫るから、とても勉強になります。色々な表現を学ぶチャンスなんです。初めて見た時は、同じ文字が並んでるから、全部同じに見えましたけど、手彫りなので一本一本全然違うんですよ。」
出品作品は課題をもらって一ヶ月ほどかけて制作するという。数年前から毎年出場している「大印展」と「全国印章競技会」の他に、もうひとつ「技能グランプリ」という大会がある。制限時間のなかで技術を競う大会。「今はまだまだですが、いつか出てみたい」と話す。
お店の一角にある、土屋さんの作業スペース。訓練校で手づくりした印刀が並び、細い筆やすずりなど、道具がきれいに整頓されている。この筆は字入れをする筆で、まずはんこの彫る部分に、赤い朱墨をつけて黒い墨で字入れをする。この朱墨をつけた赤い部分を印刀で彫っていく。
手入れされた印刀はよく切れ、堅い印材も彫ることができる。ライトを照らし、篆刻台(てんこくだい)という木製の台にはんこを固定し彫っていく。集中力が必要な緻密な作業で、シンと静まる場面だ。7、8本の印刀を使い分けながら仕上げていく。
印影をより良く見せるために、押し方も大切。ゴムがはり付けてある板にいったん朱肉を付けてから、それをポンポンとはんこにつける。指で朱肉をはんこに付けるやり方も。竹の皮が貼り付けてある“ばれん”を台にして、その上に紙をのせはんこを押す。押したまま、ばれん台と紙を軽くスライドさせて、まんべんなく力を入れる。すると竹皮の効果で均一にパキッとした印影になる。大会に出品する時には押したものを一緒に送るため、いかにきれいに印影を出せるかも技のひとつなのだ。
書類などに捺印する時は、捺印マットなどの下敷きをしき、丸い印鑑などはのの字を書くようにゆっくり5秒ほど力を入れると、きれいに印影がでる。印影は印材によってもまた違ってくる。
はんこの印材は種類が豊富。アクリルやプラスチックなどお手頃なものや、象牙、牛角、黒水牛、柘(つげ)など動物や自然の印材がある。
「特に象牙は、きれいに押せる。目が細かいから朱肉のノリが良く、堅さもある。丈夫で長く使えるので、実印など大切な時に使うものには象牙はおすすめですね」。
人生の大事な瞬間に押すはんこ、記念に贈るプレゼントのはんこ。
「節目節目に使っていただくはんこを作りたい」と話す土屋さん。大事な瞬間に使うものだからこそ、同じ物はふたつとない一本を。
篆刻台にはんこを固定して彫っていく。はんこは約4,000円くらいから印材によって数十万円のものまである。
賞に出品した作品や練習作品など。周りにある古いものは、先々代が練習したものなど。
大会に出品し金賞などを受賞した作品。大きさは一寸二分(36mm)。木口密刻と木口角印の部で賞をとったもの。
訓練校で手作りした印刀を使用。黒檀で刃を挟んである。
夜桜のライトアップが見事な臥竜公園(須坂市)
長野県の北東部、長野市の隣りに位置する須坂市(すざか)。明治から昭和にかけて製糸産業によって繁栄した町・須坂市は、今も豪壮な土蔵づくりの旧製糸家建物や大壁造りの商家などが残されている。市内には豪商の館・田中本家博物館をはじめとする博物館や蔵をそのまま生かした美術館や商店などがあり、蔵の街並みを見ながらの散策が楽しい。
今年2月に店を建てかえたばかりの土屋印店は、創業100余年になる街のはんこ屋さん。5代目の土屋武志さん(35歳)は、父親の重忠さんと共に印鑑を手づくりしている。土屋武志さんは実用的な印鑑のほかに、芸術性の高いはんこも制作している。店内には、印章彫刻の全国大会で金賞をとった作品が飾られている。人の手作業でこれほどまで細かく掘れるのかと目を見張る、文字、模様がはんこの小さなワクの中に描かれている。
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