「都会で見かけるリースはとても素敵だけど、私が使う材料とは違う。私が使うのはほとんどが、ここにある山で見つけた材料です。“今満たされているものでやってごらん”そう自然が言っているような気がするんです」と話す村上祥子さん。北八ヶ岳の東麓、自然豊かな八千穂高原に住み、創作リースを制作している。『工房ユトリエ』を構え、現在は昨年からリースづくりを始めたご近所の高橋正枝さんと一緒にリースを制作し、地元のお店などで販売をしている。
緩やかな斜面の庭には山桜、もみじなどが植えられ、蝶や小鳥が飛び回っている。庭の斜面の下には、イワナやヤマメが釣れる渓流があり、霧がかかる時や夕暮れ時はとても幻想的だ。春から夏はみずみずしく茂った緑が庭に面した大きな窓に映え、窓を開ければサラサラと水の流れる音が沢から聞こえてくる。ここが村上さんのアトリエだ。乾燥させている濃いピンク色をした蕎麦の花やホオズキ、ラベンダー…。ハーブの香りが、部屋いっぱいに広がっている。マツボックリやドングリなどの木の実が、箱に分別され、ずらりと並んでいる。
「蕎麦の花などは、多く水分を含んでいるんです。一気に乾燥させる必要があるから、除湿器は欠かせないですね。リースづくりには、とにかくたくさんの材料があったほうがいい。何でも採ってみて、乾燥させてみる。使える使えないはそれから判断するんです」。常に材料をさがしている。だから散歩に出かけても、素材探しに必死になってしまい、前に進まないと言う。
「きれいなマツボックリが落ちる年と、そうじゃない年、いろいろあるんですよね。冬になると、雪の上に落ちているんです。風が強かったり、雨が降った翌日は出番ですね。採りに行かなきゃと」。
リースの土台はツルを輪っかに丸めたもの。アケビやウメモドキ、フジヅル、クズなどツルの種類も様々。どれも、この辺りで集めることができる。木に巻き付いているツルは、春のものだと葉を育てようとするため、水分をいっぱい含んでいる。そのため、春のものを使っても乾燥した時に細く、貧弱になってしまう。だから秋になると、なるべくたくさんのツルを準備しておくそう。そうして出来上がったツルの輪っかに、グルーガンという便利なピストル型の接着剤でマツボックリなどをくっつけていく。様々な種類の素材がセンス良く配置され、まるでケーキのデコレーションのよう。なるべく自然のままの色、アースカラーを大事にしつつ、適度な照りをだすために、ラッカー・スプレーを吹きかける。色が保たれ、ホコリもかかりにくい。
「色褪せてしまったドライフラワーは、新しいバージョンに取りかえてみたりします。そうやって手をかけることで、十分ベースのマツボックリ君たちはがんばってくれるんですよ。ほんとにこの子達はいい子ですね。マツボックリが落ちていると拾わずにはいられないです」と村上さんは笑う。
二年に一度、八千穂高原の別荘に住む人達が出品する「別荘展」が開催されている。
「だんだんと自分で作って飾っているだけじゃ物足りなくなってきて、誰かに見てもらいたいと思う。欲ですよね。でも、この欲のバランスで上達することもありますよね。自己満足だけでは、なかなか前に進めない気がするんです。それに今は、高橋さんというパートナーができて、違った刺激もありますね」と村上さん。
キャラゥエイというスパイスを練り込んだ、手作りのスコーンにルバーブジャムをつけてお茶の時間。どちらも近くに借りた畑で育てたものだ。自然に感謝する気持ちが、穏やかな時間を生む。おしゃべりを楽しみ、食事を楽しむ暮らし。そして、材料一つ一つに手をかけ、愛でて、リースづくりを楽しんでいる。
アトリエの大きな窓の向こうが、徐々にしっとりと秋色に染まる季節。そろそろクリスマスのリースを制作しようと、村上さんはあれこれとアイデアを練っている。 |