「作る事が楽しい、それを飾って楽しむ。でもそれだけじゃなくて食べる事もできる。芸術だけど、お菓子の世界なんです」。
どこまでも続く山と田園風景が広がるのどかな風景の飯山市。シュガーアーティストの村松静さんは、里山の温泉郷戸狩温泉で家業の民宿の仕事をしながら、シュガーアートを制作している。自宅の一室にある静さんの作業場に入ると、ケースに収まった、パステルカラーのケーキや可愛らしい人形、バラなどが飾られている。シュガーアートとは、ウェディングケーキをはじめ、お祝いに使われるものから手軽にできる小さな飾りまで幅広く親しまれているもので、食べられる材料で作り上げた“砂糖の工芸作品”。
「湿気さえ気をつければ半永久的に持つんです。お砂糖が原料なので、湿気が多いと溶けてしまいます。作る時も、湿度が高い時は、なかなか固まらず、細かい作業ができないんですよ」。乾燥剤を置き除湿したガラスケースには、繊細なデコレーションをそのままに、ゴージャスなケーキが並ぶ。
シュガーアートはイギリスが発祥。十九世紀ヴィクトリア女王時代から親しまれていたもので、もともとは食べるケーキとして生まれた。
「世界一、優雅で美しいケーキとされているんです」と静さん。昔から上流階級の人達の間でシュガーケーキがはやり、お祝いやパーティでシュガーケーキを用いる事がお洒落とされていた。
「イギリスだとウェディングケーキは現在でもシュガーケーキが伝統的なケーキとして主流のようです。三段のケーキが基本で、一番下は出席したゲストにふるまい、二段目は出席できなかった人達に、そして一番上の段は、日持ちがするケーキだから、自分達の一年後の結婚記念日や赤ちゃんが生まれた時まで取っておいて食べたりするようです」。
7年前、東京で会社勤めをしていた静さんは、雑誌の特集記事にあったシュガーアートに興味を持ち、軽い気持ちで体験レッスンに参加した事がきっかけで、シュガーアートの世界に足を入れた。
「最初の体験レッスンで小さな飾りを作ったんですけど、その体験が思った以上に楽しくて。これは友人の結婚式とかに贈り物もできるし、食べて終わりじゃなくて、飾っておけるところに魅力を感じたんです」。
1年間東京の教室でレッスンを受けた後、イギリスと台湾に短期留学をし、シュガーアートの色々な技法を修得した。
「色々なテクニックを増やしたくて、一週間朝から晩までみっちり教えてもらいました。台湾ではしぼりのテクニックを教えてもらいましたが、腱鞘炎になるくらい練習しました(笑)。一週間かけて一個のケーキを作り、それを手荷物で飛行機に乗って持ち帰ったんですけど、壊れやすいんで大変でした」と静さん。イギリスで行われたシュガーアートの国際大会などに出品し、セレブレーションケーキ部門やインターナショナル部門などで金賞等、大きな賞を受賞した。
「日本人の方が数名参加していましたけれど、やっぱり日本人は、細かい作業が得意だから、素敵な作品がたくさんありました。ヨーロッパで盛んなシュガーアートですけど、日本の技術は世界に劣らない、それ以上の技術の方が多かったです」。
静さんの作業場に漂う砂糖の甘い香り。土台は発泡スチロールを使用しているが、その他は食べられる材料が基本。粘土のような固さのシュガーペーストで土台をカバーリングして、その上にデコレーションをする。粉糖を卵白でといたものを生クリームの様に搾って、アイシングワークを施す。
レース、パール、リボンなど驚くほど繊細でゴージャスなデコレーションは、作る人の優しさが現れている。大切な日に、大切な人への贈り物として、たくさんの人に喜ばれている。 |