「私達の目標は自給自足の生活なんです。食べるものを作って、着るものもできれば自分で作れたらいいなと思って」と話す尾池三佐子さん。豊かな自然があふれる津南町に移り住んで22年になる。米づくりや野菜づくりなどの農業のかたわら、山や畑、庭で集めた草木を使い、糸を染め、織りにしてストールなどの作品にしている。
奥信越・津南高原にある農家民宿「サンベリー」。赤いベリー色の壁が印象的な小さな民宿を夫の紀一さんと共に営んでいる。田舎の生活体験ができる1日1組の宿だ。二階にある三佐子さんの作業場「つなん原染織工房」には、染色したカラフルな糸や作品が並び、美しい色彩を魅せる。機織り機が4台あり機織り体験もできる。
「東京の会社に勤めていた25歳頃は、土日になれば趣味に走っていましたね」と三佐子さん。当時は陶芸をやってみたり何か自分にできる事はないかと、探していたという。
「やってみたら、機織りはとても細かな作業なので、若いうちに始めて覚えたい。今しかないと思った」。ほどなくして会社を退職し、1年半ほど染織の技術を勉強、フリーで染織の仕事をするようになった。結婚後住んでいた千葉県船橋市ではオーダーメイドで服地を織る仕事をしていた。
当時サラリーマンだった紀一さんは、家の近くに畑を借りて若い頃から興味のあった野菜づくりをしていた。田舎暮らしへの憧れ、自分の畑を持ちたいという思いから移住を決意。三佐子さんも「染織はどこにいてもできるから、どこへ引越してもいい」と賛成。関東近郊から物件を探し始め、紀一さんがかつて農業体験をした事があった津南町へ引越した。
「子供達がまだ小学生だったから動けたのね。中学に行っていたらまだ船橋にいたかもしれないわね」と三佐子さん。引越す前の冬に下見に来た時は、まれにみる積雪の少ない年で「このくらいなら大丈夫と思ったけど、あんなに雪が少なかったのは、ここに引越して一度もない」と笑う。
「糸は自分で染めないと、気に入ったものができないんです。津南町に来るまでは、化学染料で染めていたけれど、ここでは草木を煮出して染色しています。何でも材料になり、とても面白いんですよ」と三佐子さん。庭のクルミの木の葉っぱや畑作業の合間に集めたタンポポの花...自然の材料からつくる色合いは淡く優しい。
「既製服のほとんどは化学染料で染めたものだけど、今あえて戻って草木染めをしたいと思って。柔らかい色が多いから、和みますよね。フキノトウ、ツクシは春一番でやります。それを逃すとまた一年先まで待たなきゃいけないから」。
草木を煮出し、媒染を行う。金属の種類によって染め上がりの
色が違ってくるという。緑色を出す時は銅、こげ茶色やグレーを出す時は鉄を入れて媒染する。
ここ数年は津南高原にある宿泊施設「ニュー ・グリーンピア津南」で飼っている羊の羊毛を使い糸をつむいでいる。汚れを落とす手間はかかるが、暖かいウール素材になりマフラーなどに変身する。
「織っている時が一番楽しいけれど、織る作業はほんとに最後の最後」。その一つ一つのプロセスを楽しむ、気持ちの余裕が必要だ。
美味しい作物が育つ環境、美しい景観、厳しい冬もあるがこその、それぞれの季節が色濃く際だつ津南町での生活。信越トレイル(自然遊歩道)が延びる関田山脈が見える工房で、農作業のかたわら染織をする日々。染織体験や農作業体験、天然酵母パンづくりを楽しみに来る宿泊のお客さんに、津南町の暮らしや文化を伝えている。
■三佐子さんが出展する 「第5回越後妻有2012クラフトフェア」
9月15・16日開催。
100人以上の作家が 手づくり作品を出展する。
会場はニュー・グリーンピア津南。 |
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