「小さいものを作るのは、気の遠くなる作業だけど、もともと細かい作業が好きなんです。人形に持たせる傘やお花だって、今の時代、既製品でいくらでも売っているけど、できるだけ自分で作りたいと思って、楽しんであれこれ作っているんです」と話す谷本美代子さんは、須坂市在住の和紙人形作家。人形の大きさは大きなもので10cmほど、現在はさらに小さく、2cmほどの小さな小さな人形を制作している。
かつて子供部屋だった場所が谷本さんの制作場。窓からは北信五岳、遠く北アルプスを望むことができるその部屋で、細かい作業に集中する。「1万体を作る事が目標なんです」と谷本さんは言う。透明のボックスには、これまで作ってきた人形が収納され、その数は数百にもおよぶ。
「小さいから、たくさん作ってもちょっとのスペースでしまっておけるのが魅力よね」と谷本さんは笑う。
和裁や着付けの仕事に長年たずさわってきた谷本さんが、60歳で仕事を退職した後に始めた人形作り。
「いつか人様の着物が縫う事がなくなったら、小さなお人形さんの着物を縫ってみようと、布を使って作っていた事があったんです」と話す。しかし布で作る小さな着物に限界を感じ、いつしか和紙で作るようになった。また町の文化祭で見た和紙人形との出会いが谷本さんの心を打ち、独学で和紙人形を作り始めた。その後試行錯誤しながらも人形作りをし、ある和紙人形展で出会った先生を訪ねて、東京の教室へ1週間ほど通い、基礎を学んだ事もあったそう。
「この帯はチョコレートの包装紙だったんですよ」。
材料には、和紙の他、日常で見つけた色々なものがパーツとなる。パン袋をしぼる針金、お菓子のパッケージ、包装用のリボン、のし袋の水引などを使いオリジナルの材料を作り、帯締めや髪飾りなどにする。
「和紙なんかは東京の湯島のお店や、旅行先で見つけると買っているんですけど、日常で使えそうな材料があるとつい目がいって、しっかりストックしておきます」。
針金とキッチンペーパー、白い和紙で作られた小さなボディーを作り、竹串を使いながら着物を着せ、木工用接着剤で器用にはり付けていく。細かいパーツはピンセットを使う。袖をつけて、最後に帯をつける。帯の締め方は多種多様。同じ模様の和紙を使っても、結び方によって雰囲気は変わる。髪型も1体づつ変えている。
「髪飾りも色々あるでしょ。日本髪を結って。あこがれがあったから、お人形さんに託しているとこがありますね。」
「いくら小さくても細かい半襟を着せたい。こんなに小さいのは付けなくていいと思われるかもしれないけど、これも一個体の人間だよねなんて思うと、細かいところまできちんと着せたいなって思うんです」と微笑む。
器用な谷本さんの手にかかると、初々しく、時に色っぽい生き生きとした人形に変身する。和裁の仕事に長年たずさわってきた着物のプロだからこそ、人形の細やかな着付けをする事ができた。人形の動作によってできる着物のしわやふくらみも精巧に作っていく。和紙だからこそ、繊細な表現が可能だ。
「まだまだ勉強することは、いっぱいあります。人の動作は無限大ですよね。日本舞踊の動きを見たり、新聞や雑誌で目にとまったものがあれば、参考に切り取ってとっておくんです」。
現在は、3月の作品展に向けて、篤姫を製作中。わずか3cmほどの篤姫は、和紙のモダンであでやかな着物に包まれている。
「作品展で遠くからお客さんを見ていると、なになにこの小さいのはって、喜んでくれて。その反応が嬉しくて、ますます一所懸命になってしまいますね」。
同じ目線で、ミニチュアの人形の世界を覗くと見える驚き。細かな手作業から生まれる作品は、今にも動き出しそうだ。 |