「気に入った布を切るのには、なかなか勇気がいりますね。たまに出してみて眺めたり、悩んだりするのも楽しいです」と甲斐沢紀代子さんは話す。作務衣やもんぺなどの日常着に使われていた木綿の丈夫な“かすり”が若い頃からずっと好きで、集めてきたのが古布(こふ)好きになった始まりだと言う。
ご近所同士の滝沢常盤さん、太田恒子さんと3人で、古布を使った小物づくりをしている。古布の持つ色あせない魅力に魅せられ、古布好きから、いつしか古布を生かす作品づくりに夢中になった。
甲斐沢さんは、“さるぼぼ”のお人形や猫の人形、うさぎのブローチなどを作っている。さるぼぼとは、縁起の良いお守りの意味があるお人形。孫が生まれた時に作ったというさるぼぼのつり雛は、古布の色あざやかな上品さと可愛いらしさが際だつ。
滝沢常盤さんは、もんぺやはんてん、お地蔵さんの人形などを作っている。竹の棒に、まるで洗濯をして干してあるような、もんぺやはんてんの飾りは懐かしい田舎の情景が浮かぶ。にっこりと微笑むお地蔵さんの人形も、落ち着いた色の古布を使っていて、ビーズの小さな数珠まで手づくりしている。
太田恒子さんは、小さな着物やはんてん、お手玉などを作っている。昔の小さな子どもが着ていた古布などを使った縮小版の着物は、お手製の着物掛けに飾られている。裏表で違う古布を使った小さな半てんの飾りも、あたたかく、微笑ましい作品だ。
作業をする時は、それぞれ別々に作っているが、3人が集まれば、楽しい古布のおしゃべりが始まる。
「きれいな紫や赤色よね。ずっと昔の時代にこんなきれいな布をつくる技術があったなんて、とても不思議」と太田さん。色鮮やかな古布のはぎれを見ながらそう話す。
「時代を経て、大事にされてきた100年も前のものを、私たちが買って自分の趣味として、何かの形にして活かせる。そういう風に思うと、ありがたい、うれしい事だなと思っています。ただ戸棚の奧に眠っているだけでは、もったいないなと思います」と滝沢さんは話す。
「古布は見ているだけでも楽しいし、探すのも楽しい。ただ値段を見て苦しくなったりもするけれど(笑)」。欲しいものがあっても、値段が高い物もあり、一枚の着物を一緒に買って3人で分ける事も。ここ何年かの間に古布のリメイク服が流行り、古布屋には古い着物が多く出まわるようになったそう。古布屋、リサイクルショップ、旅先の店で…。探す楽しみも魅力のひとつだ。
小物づくりのひらめきは、出かける事。あちこちで開催されている人形展やイベントをはじめ、大自然の中の花々を見たり、旅先のお土産屋さんを覗いたり作りたいイメージはそこかしこに。まず手を動かして作ってみる。自分でイメージをしながらアレンジをして新作を作っていく。初めは時間がかかって、ほどいたり縫ったりしていたというが、今では古布の個性を活かす物づくりをいつも考えるようになった。ひとつひとつが違うオリジナルの3人の作品は、道の駅安曇野松川「寄って停まつかわ」で展示販売をしている。
現代に受けつぐべき、古布の美しさ、あたたかさ、鮮やかさ。“野布の友”の3人は作ることを楽しみながら、眠っている古布の魅力を発信していく。
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豊かな自然に囲まれた松川村は鈴虫の里としても知られ、道の駅安曇野松川の施設内にも鈴虫用の加温室がある。毎年7月頃には『すずむし宅配便』が始まり、鈴虫の音色を届けている。3人もこの鈴虫を育てる「こぶし会」に何年も前から参加している。甲斐沢さんのご主人が発起人となり、全国に発送している。 |