「演奏をする延長で、自分で楽器を作り始めてしまったんですね。自分で作っていったら、そのうち気にいるものができると思ったんです。楽器を作るって気持ちいいものですよ。それを使って自分で演奏ができるんだから」フォルクローレ演奏家の上村一彦さん(61)はそう話す。 |
“フォルクローレ”とは、民族音楽のこと。上村さんは、約25年前に南米アンデス地方の民族音楽に出会いすっかり魅了されてしまった。ペルー、ボリビア、パラグアイなど言葉も何もわからないまま「自分の根拠をもっと盤石にしたい」と音を探しに幾度か一人旅をしてきた。 |
上村さんはフォルクローレ楽器の一つ、ケーナの講師もしている。ケーナとは、アンデス地方に古くから伝わる楽器で、「コンドルは飛んでいく」の主旋律を奏でているたて笛といえば、誰もが音をイメージしやすい。上村さんは、ケーナを演奏するうちに、ケーナの制作を始めてしまった。 |
「まずは見よう見まねで作りました。あれこれと試行錯誤しましたよ。お嫁にいったものもだいぶありますから、もうどれほど作ったかわからないですね」。音がうわずってしまって、気に入った音にしていくのはなかなか難しいと言う。 |
上村さんが作るケーナの材料は竹。アンデス地方のケーナは、葦(あし)や木材なども使っているが、今は竹が主流のよう。長さが約40cmの竹に穴をあける位置(表側に6つ、裏に1つ)に鉛筆でチェックし、電動ドリルと数種類の紙やすりを使って穴をあけ調整をしていく。何度も音を出しては、傍らに置いたチューニングの機械を見ながら音程を細かく確認。さらに、調整を繰り返していく。 |
このケーナという楽器は、大きさによって種類が異なり、約50cmほどある大き目のものは“ケナーチョ”と名前が変わり、約30cmほどの小さめのものは“ケニージャ”と呼ぶ。それぞれ音程が異なる。 |
ケーナの吹き口にはU時の切り込みがあり、そこから息を吹きかけて音を出すのだが、リコーダーを吹くようには、初めて吹く人はなかなかうまく音を出すことができない。 |
「どこだったかで、ケーナを初めて手にして吹いてみたとき、すぐに音が出たんですよね。音を出すのはけっこう難しいんですよ。すごい!と自分で思って(笑) でも、それからがなかなか大変だったんですけどね」。 |
それからフォルクローレをやっている仲間との出会いがあり、ギターを弾くことができた上村さんは、その仲間と音楽を楽しむようになった。“ラグーナベルデ”というグループとして、長野県を中心に演奏活動を行いCDを制作した。
その後ケーナ演奏家の堀みゆきさんとのデュオ“ベルデオスクーロ”を結成。ベルデオスクーロとは、スペイン語で“深緑”の意味。時には、ラグーナベルデのメンバーであった白沢理一さんがメンバーに加わり“ベルデオスクーロ イ ブランコ”として活動する。“ブランコ”とは白沢さんの白だ。現在は、ホテルやペンション、カフェなど各地で演奏活動を行っている。 |
「南米へ旅した時にまず僕は、ペーニャ(ライブハウス)を探すんです」。向こうのライブハウスでは、ただ音楽を聴くだけの場所ではなくて、食事やお酒を楽しみながら音楽を楽しむというスタイル。そんな場所がほしくて、自分で家を作り始め6年後にペーニャ苗圃を開いた。 |
「家づくりを自分で始めてしまうと、大変だからって大工さんに頼めなくなっちゃうんだよね、かっこわるくて。だから最初から頼めばよかったんだよって言われそうでさ(笑)」。 |
建物は、昼間はシックで落ち着いた雰囲気。おいしいと評判のペーニャ苗圃オリジナルのコーヒーをのんびりと楽しめる空間になっている。そして、月に1回ライブイベントがあり、自らのグループが演奏することもあれば、ジャズやブルースの演奏家のライブも楽しめる。 |
ホームグラウンドで、時に一人黙々と音づくり、そして仲間と音楽を楽しむ。涼風が吹く黒姫山のふもとにフォルクローレが鳴り響いている。 |