すぐうしろに飛騨高山を従え、乗鞍岳をはじめ、四方を山に囲まれたとてものどかな集落「松本奈川」。かつて野麦峠を越えて工女たちがこの里を往来し、師走ともなればブリ街道となって松本平に『年取魚』が運ばれた。さまざまな歴史が行き交ったこの故郷は、今もほんのり温かい、素朴な心を残す。
奈川の白樺峠では毎年9月〜10月中旬頃「タカの渡り」が見られる。「サシバが上昇気流を利用し飛翔高度を上げて滑空するタカ柱は圧巻。渡り鳥。うちの宿の由来はそこから来てるんですよ」。その昔、この沢を訪れた渡り鳥たちのために、村人は鳥屋(とや)を置き、休息の場を与えた。そして、いつしか人はこの沢を鳥屋沢(とやさ)と呼ぶようになった。高宮澄男さん(54)は、旅の疲れを想い気づかう気持ちから生まれた沢の名「鳥屋沢」を平成4年の宿屋開業のときに宿名とした。 |